「源氏物語 澪標」(紫式部)

権力だけでなく女性との関係も見事に修復

「源氏物語 澪標」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

源氏帰京の翌年、
朱雀帝が退位する。
新帝・冷泉帝は、公には
前帝の弟であるが
実は源氏の子であった。
源氏は内大臣となり、
政界を退いていた元左大臣も
太政大臣となる。
源氏の系統が
再び政界の主流を占める。
そのとき女たちは…。

源氏物語第十四帖「澪標」。
劇的な前二帖「須磨」「明石」を受けた
本帖は、一転して穏やかな展開です。
さらに輝きを増して都の政治権力の座に
返り咲いた光源氏ですが、
本帖は、彼の周囲の女性たちの生活に
焦点が当てられています。

本帖で描かれている女たち一
朧月夜

源氏失脚の
そもそもの発端となった朧月夜。
源氏との逢瀬を「若気の無分別」と
振り返り、心の底に僅かに残る
未練を断ち切るように、
朱雀帝の寵愛を受けるのです。

本帖で描かれている女たち二
女房たち

実は須磨・明石での二年半の間、
留守にしていた二条院では、
正妻・紫の上だけでなく、
何人かの女房たちも
源氏を待ち続けていたのです
(女房とは現代の「妻」ではなく、
貴人に仕える女性使用人、
いや女性秘書的な役割)。
「情を見えたまふに、
 御暇なくて外歩きもしたまはず。」

つまり、
その女性たちとの情交に忙しくて、
外歩き(夜遊び)もできないのです。

本帖で描かれている女たち三
花散里

この花散里は意外に
粗略に扱われています。
源氏がようやく暇になったので
会いに行くといった具合です。
彼女はそんな源氏に
恨み言も泣き言も言わず、
むしろ優しく包み込むのです。
おっとりとした、
寛容で包容力のある女性です。
源氏の態度も
それを見越してのことでしょう。

本帖で描かれている女たち四
明石の君

明石に残してきた姫君にも、
生後五十日のお祝いを届けるなど、
抜け目のない源氏の配慮が
描かれています。
明石の君や明石の入道の不安は
こうした源氏の気配りで
解消されていくのです。

本帖で描かれている女たち五
宣旨の娘

その明石の君との間に生まれた
娘のために、源氏は乳母を派遣します。
その乳母として指名した宣旨の娘もまた
かつて源氏が手をつけた女性なのです。
上手に手なずけて
辺鄙な明石に向かわせるなど、
源氏でなくてはできない技です。

本帖で描かれている女たち六
五節の女君

この女性もかつての恋人です。
源氏を思うあまり、
独身を通しています。

本帖で描かれている女たち七
六条御息所

伊勢に下っていた六条御息所と
娘・斎宮は、朱雀帝退位に伴い、
京に戻ってきていました。
御息所はすでに死期が近づいていて、
源氏に対して「娘の斎宮の後見」と
「斎宮には手を出すな」という
二つの願いを託し、他界します。
これがなければ源氏は確実に
娘に手を出していたでしょう。
生き霊を生み出すくらいの御息所です。
うかつに手を出せば
どんな災いがあるか
知れたものではないのですから。

本帖で描かれている女たち八
藤壺の尼宮

その斎宮の処置について、
源氏は藤壺の尼宮に相談します。
二人は斎宮を冷泉帝の后として
入内させる計画を協議します。
何ともしたたかな二人です。

本帖で描かれている女たち九
紫の上

ようやく明石から帰ってきたにも
かかわらず、源氏の女通いは
一向に改まるところがありません。
紫の上が嫉妬するのも当然です。
しかし「その嫉妬した姿もかわいい」と
上手にいなしてしまうのですから
源氏はやはり手練れです。

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細部まで拾い上げると、
これだけの女性について
描かれているのです。
源氏はしみじみとつぶやきます。
「とりどりに捨てがたき世かな。
 かかるこそなかなか身も苦しけれ。」

つまり、
「どの女性も捨てがたい魅力がある、
だから苦労するのだ」。

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権力を取り戻しただけでなく、
女性との関係をも見事に修復したことを
示そうとしたかのような本帖です。
やはり源氏恐るべし。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.4.25)

Pop-sanさんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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